2024.12.25
お尻の病気について(肛門疾患)
お尻の病気は症状が出ても受診に迷ったり、どこを受診したらいいか迷うこともあります。お尻の病気の3大疾患は痔核(いぼ痔)、裂肛(切れ痔)、痔瘻(あな痔)です。また他にも直腸粘膜脱症候群などもあり、実はお尻の病気は多彩です。お尻の症状は恥ずかしいと思い、受診をためらい、その結果治療が遅れてしまうこともあります。お尻の症状に迷ったら消化器、内視鏡、肛門の専門医に相談することが望まれます。
目次
痔核(いぼ痔)
内痔核
内痔核は、肛門の内側(直腸側)にできる痔核(いぼができる痔)です。直腸や肛門周囲の血流が滞り、静脈が膨らんでできる病変です。以下はその主な特徴です:
原因としては以下のようなことが挙げられます。
- 長時間の座位や立位による血行不良
- 排便時の過度ないきみ
- 便秘や下痢の繰り返し
- 妊娠や出産(腹圧が増加するため)
- 遺伝的要因
以下が内痔核の主な症状になります。
出血
排便時の鮮紅色の出血が主な症状。
痔核の脱出
痔核が肛門外に飛び出すことがあり、重症化すると戻せなくなる。
違和感
肛門付近の異物感やむず痒さ。
痛み
通常は痛みを伴わないが、血栓形成や嵌頓(かんとん)時に痛みが出ることがある。
分類[Goligher分類]
内痔核は進行度に応じて以下の4段階に分類されます:
第1度
痔核が内側にとどまり、脱出しない。
第2度
排便時に脱出するが、自然に戻る。
第3度
排便時に脱出し、手で戻さなければならない。
第4度
常に脱出していて、戻らない。
外痔核
外痔核は、肛門の外側(皮膚の下)にできる痔核で、内痔核と異なり、痛みを伴うことが多い病態です。外痔核は主に肛門周囲の静脈が拡張し、血液が滞留してできる病変です。以下はその特徴です。
原因としては以下のようなことが挙げられます。
- 排便時の強いいきみ
- 便秘や下痢による肛門への負担
- 長時間の座位や立位
- 妊娠・出産(肛門周囲の静脈に圧力がかかるため)
- 肛門周囲の血行不良や外傷
以下が外痔核の主な症状になります。
痛み
皮膚の下にあるため、炎症や血栓形成時には強い痛みが生じる。
腫れ
肛門周囲に腫れやしこりができる。
かゆみ
皮膚が炎症を起こすことで痒みが生じる場合がある。
出血
まれに血栓が破れて出血することがある。
分類:外痔核は以下の2種類に分けられます:
単純外痔核
血栓や炎症がない場合。腫れや違和感が中心。
血栓性外痔核
静脈内に血栓ができて強い痛みや腫れを伴う。
痔核の治療
痔核の治療は内痔核と外痔核でも違いますが、生活習慣の改善と、保存療法、非手術療法、手術療法に大きく分けられます。
1. 保存療法(軽症の場合)
- 生活習慣の改善
- 食物繊維を多く含む食事を摂取し、便秘や下痢を予防。
- 水分を十分に摂取。
- 排便時に長時間いきまない習慣をつける。
2.薬物療法
座薬や軟膏
炎症を抑える。
内服薬
血行を改善し、痔核の症状を軽減。
3. 非手術療法(進行した場合の適応)
結紮療法(ゴム輪結紮術)
痔核の根元をゴムで縛り、血流を遮断して壊死させる方法。
硬化療法(ジオン注射=ALTA療法など)
痔核に薬剤を注射して縮小させる治療法。
赤外線焼灼療法
赤外線で痔核を焼灼し、縮小を促す。
4. 手術療法(重症の場合)
痔核切除術
痔核を直接切除する方法で、再発リスクが低いとされています。
PPH(内痔核硬化療法)
縫合器具を用いて痔核を切除し、直腸の粘膜を固定する治療法。
痔核の予防
- バランスの取れた食事を心がけ、腸内環境を整える。
- 適度な運動で血流を促進。
- 長時間座ることを避け、定期的に立ち上がる。
- 温浴や肛門周囲の清潔を保つ。
裂肛(切れ痔)
裂肛は、肛門の皮膚や粘膜に小さな裂け目(亀裂)ができる状態を指します。俗に「切れ痔」とも呼ばれ、排便時の痛みを主な特徴とします。便秘や硬い便、肛門への過度の刺激が主な原因です。
裂肛(切れ痔)の原因
便秘
硬い便が肛門を傷つける。
下痢
頻繁な排便が肛門を刺激する。
排便時のいきみ
強いいきみが肛門に負担をかける。
肛門括約筋の過剰な緊張
肛門が過剰に収縮し、傷が治りにくい状態になる。
炎症や感染
肛門周囲の炎症や感染による刺激。
裂肛(切れ痔)の主な症状
痛み
排便時に強い痛みが生じる。痛みは排便後もしばらく続くことがある。
出血
鮮紅色の出血がみられる(便に付着したり、トイレットペーパーに付く程度)。
肛門周囲の緊張感
肛門が締まっている感じや違和感を伴う。
慢性化すると傷が繰り返され、瘢痕組織(硬い皮膚)が形成される。肛門ポリープやいぼができることもある。
裂肛(切れ痔)の分類
急性裂肛
比較的最近発生したもので、治癒しやすい。
慢性裂肛
傷が繰り返され、慢性的な状態になる。治療が必要な場合が多い。
痔瘻(あな痔)& 肛門周囲膿瘍
痔瘻(じろう)は、肛門周囲に膿がたまる「肛門周囲膿瘍」が原因で、肛門の内側と外側をつなぐ「瘻管(ろうかん)」というトンネルが形成される病気です。慢性化すると自然に治ることはほとんどなく、手術が必要になることが多いです。
痔瘻の原因
肛門腺の感染
肛門内部にある肛門腺が細菌感染を起こし、膿瘍(うみがたまる状態)が形成される。
膿瘍が破れる
膿瘍が自然に破れ、膿が外側に排出されることで瘻管が形成される。
痔瘻の症状
肛門周囲の腫れや痛み
膿瘍が形成される段階では激しい痛みが生じることがある。
膿や分泌物の排出
瘻管から膿が出ることで、下着が汚れる。
違和感やかゆみ
慢性化すると肛門周囲に違和感やかゆみを伴う。
再発する炎症
瘻管を通じて感染が繰り返される場合がある。
直腸粘膜脱症候群(Mucosal Prolapse Syndrome, MPS)
直腸粘膜脱症候群(MPS)は、直腸の粘膜が慢性的に脱出または突出する状態を指し、排便障害や直腸痛などの症状を伴うことがあります。
直腸粘膜脱症候群の特徴
定義
直腸粘膜の部分的または全体的な脱出を特徴とする症候群。軽度から重度まで様々な形態が存在する。
関連病態
直腸脱、内痔核、便秘、過敏性腸症候群(IBS)と関連する場合がある。
頻度
中高年層に多いが、若年者にも発生する可能性がある。
直腸粘膜脱症候群の症状
- 直腸痛(特に排便時に悪化)
- 粘液分泌の増加
- 排便後の不完全排便感
- 血便(軽度の粘膜損傷による)
- 排便時の直腸脱出感
慢性的な症状
長期間にわたる不快感や炎症が続くことがある。
直腸粘膜脱症候群は内視鏡(大腸カメラ)で見ると3つのパターンに分けられます。
直腸粘膜脱症候群には、見た目によって3つのタイプに分けられます。
隆起型
盛り上がってポリープのように見える
潰瘍型
表面がえぐれるタイプ
平坦型
平らなタイプ
直腸粘膜脱症候群の治療
直腸粘膜脱症候群の治療は、まず排便習慣の改善のような保存的な治療が中心となります。トイレでの時間を少なくしたり、いきみの習慣をやめたり、食物繊維を多く摂取したり、睡眠をしっかり取ったり、毎日同じ時間に排便する習慣をつけたりするなどの生活習慣や食生活の改善が有効です。薬物療法としては、便秘薬などを使用することもあります。
私の最初の英文での症例報告はこの隆起型の直腸粘膜脱症候群に直腸がんを合併して内視鏡的に切除した症例でした。
肛門がん
肛門がんは、肛門やその周囲に発生するがんの一種です。主に扁平上皮がん(皮膚の組織と同じタイプ)が多く、発症原因としてヒトパピローマウイルス(HPV)の感染が関与しています。症状には、出血、痛み、腫れ、かゆみ、排便時の違和感などがあります。早期発見が治療の鍵であり、放射線療法、化学療法、手術が主な治療法です。リスク因子として、免疫力低下や性的接触による感染があります。定期的な検診や予防接種が予防に有効です。