診療コラム

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医師が解説!便潜血検査の結果と次に取るべき行動

便潜血検査の重要性|大腸がん早期発見のカギ

大腸がんは早期発見で治る病気

大腸がんは、早期の段階で発見すれば治療の選択肢が増え、5年生存率が90%を超えることが報告されています1)。逆に進行してからでは、治療が難しくなる場合もあります。定期的な大腸がん検診を受けることが極めて重要であり、便潜血検査は進行する前にがんを発見する手段として、大腸がん検診の中心的役割を担っています。

 

なぜ便潜血検査が推奨されるのか

簡単に自宅でできる検査であり、施行することで大腸がん死亡率と罹患率を低下させる明らかなエビデンスがあります2)。また費用負担も少なく簡便であるため、多くの医療機関で推奨されています。

 

便潜血検査の仕組み|どうやって血液を検出するのか

便潜血検査の原理とは?

便潜血検査は、便に含まれる目に見えない微量の血液を検出することで、大腸がんやポリープなどの異常を早期に発見することができます。

便潜血検査には化学的検査法と免疫法があり、現在では精度の高い免疫法が主流となっています。免疫法はヒトヘモグロビンに対する抗体を用いる検査であり、便中の血液(ヘモグロビン)に反応して大腸がんやポリープからの出血を見つけ出します。免疫法では感度86%(実際に大腸がんがある人のうち86%の人が検査で陽性と判定される)であり、高い感度で大腸がんの拾い上げを行うことができます3)

 

検査精度と誤差の可能性

便潜血検査はスクリーニング検査(拾い上げのための検査)であり、精度には限界があります。前述したように感度は86%ですが、逆に言うと大腸がんがある人の14%の人は検査で陰性となります。したがって陰性であっても大腸がんが存在する可能性があるため、症状がある場合は追加の検査が必要です。一方陽性であった場合も大腸がんが存在する確率は約2~3%であるため、陽性の結果を深刻に考える必要がありません。特に痔などの良性疾患でも陽性となる可能性があります。ただし、陽性の場合は強く大腸カメラが推奨されることには変わりはありません。

 

便潜血陽性の結果が出た場合のリスクと次のステップ

便潜血陽性の約3%が大腸がん?統計データを解説

日本対がん協会の2017年度の調査によると大腸がん検診で便潜血検査を10,000人が受けたとすると、陽性と判定される人(要精密検査)は607人、その後精密検査を受けた人は417人、そして最終的に大腸がんと診断された人は17人と報告されております。便潜血検査で陽性の方で実際に大腸がんが見つかる方は約2~3%で、便潜血検査自体はあくまで大腸内視鏡検査を受けていただくきっかけの要素が強い検査です4)

痔・ポリープ・腸炎など、便潜血の他の原因

便潜血陽性の結果が出ても、必ずしも大腸がんとは限りません。痔や裂肛、大腸ポリープ、炎症性腸疾患などが原因である場合もあります。しかし実際に肛門出血などが原因でも偶発的に大腸がんや大腸ポリープが発見される場合もあります。自己判断せず、大腸カメラの適応をしっかり医師と相談することが大切です。

 

陰性でも100%安心ではない理由

繰り返しになりますが便潜血検査は出血の有無を調べるものであり、出血に乏しい大腸がんや出血してないタイミングでは、大腸がんを検出できるわけではありません。繰り返しになりますが、実際に大腸がんがある方でも便潜血検査では14%の方が陰性になりますので、症状がある場合には精密検査を受けることが推奨されます。

 

便潜血検査と大腸カメラ検査の違い

便潜血検査はスクリーニング目的、大腸カメラは診断目的

便潜血検査はスクリーニング(拾い上げ)を目的としており、大腸に異常がある可能性を見つけるための検査です。一方、大腸カメラ検査は実際に腸の状態を詳しく観察し、確定診断を行うための検査です。10㎜以上のポリープに対する感度は95~100%であり、特異度も高いため確定診断に適しています5‐6)

 

大腸カメラでわかること

大腸カメラ検査では、腸の内部を直接観察し、ポリープや炎症の有無を確認することができます。必要に応じて組織を採取し、病理検査を行うことでより正確な診断が可能となります。またポリープを認めた場合、拡大内視鏡を用いてポリープの表面構造を観察し、ポリープの良性か悪性かの判断も高精度で行うことができます。

 

大腸カメラ検査の流れと受診のタイミング

検査前の食事制限と注意点

大腸カメラ検査を受ける前には、腸内を綺麗にするための準備が必要です。検査の前日から消化の良い食事を心がけ、検査当日は医師の指示に従いましょう。

 

内視鏡検査の痛みや不安について

大腸カメラ検査は、医療機関によって鎮静剤を使用する場合があり、痛みを最小限に抑えながら検査を受けることができます。検査への不安がある場合は、事前に医師に相談すると安心です。

 

便潜血検査を定期的に受けることの重要性

 

年齢別に見る便潜血検査の推奨頻度

50歳以上の方は、便潜血検査を年に1回以上受けることが推奨されています。40歳以下の若い年齢の方でも、家族に大腸がんの既往歴がある場合は検査頻度を増やすことを考慮しましょう。大腸がんは遺伝性の要素も一部あり、リスクに応じて大腸カメラを受けることが推奨されます。

 

家族に大腸がん患者がいる場合のリスク管理

家族に大腸がんの既往歴がある場合、遺伝的な要因が影響する可能性があります。

大腸がん家族歴のない50歳の集団が大腸がんにかかる生涯リスクは1.8%といわれていますが、罹患した親族が少なくとも1人いれば3.4%、2人以上いれば6.9%に増加するといわれています7)。家族歴がある場合はより早期から検査を始めることや、便潜血検査に関わらず大腸カメラの検査も有効です。

 

まとめ

便潜血陽性なら放置せず専門医へ相談を

便潜血検査は、大腸がんの早期発見に重要な役割を果たします。

便潜血検査が陽性であった人で大腸内視鏡を受けた方と受けなかった方で比較したら約2倍の大腸がん死亡リスクがあることが報告されています8‐9)。陽性の結果が出た場合には、自己判断で放置せず必ず専門医と相談し、強く大腸カメラを受けることが推奨されます。


1)大腸癌研究会・全国登録2008‐2013年症例

2)Shaukat A, Mongin SJ, Geisser MS, Lederle FA, Bond JH, Mandel JS, Church TR. Long-term mortality after screening for colorectal cancer. N Engl J Med. 2013;369(12):1106-14.

3)Meklin J, SyrjÄnen K, Eskelinen M. Fecal occult blood tests in colorectal cancer screening: systematic review and meta-analysis of traditional and new-generation fecal immunochemical tests. Anticancer Res. 2020;40(7):3591-604.

4)日本対がん協会HPより引用;https://www.jcancer.jp/about_cancer_and_checkup/

5)Graser A, Stieber P, Nagel D, Schäfer C, Horst D, Becker CR, Nikolaou K, Lottes A, Geisbüsch S, Kramer H, Wagner AC, Diepolder H, Schirra J, Roth HJ, Seidel D, Göke B, Reiser MF, Kolligs FT.Comparison of CT colonography, colonoscopy, sigmoidoscopy and faecal occult blood tests for the detection of advanced adenoma in an average risk population. Gut.2009;58(2):241-8.

6)Zalis ME, Blake MA, Cai W, Hahn PF, Halpern EF, Kazam IG, Keroack M, Magee C, Näppi JJ, Perez-Johnston R, Saltzman JR, Vij A, Yee J, Yoshida H. Diagnostic accuracy of laxative

free computed tomographic colonography for detection of adenomatous polyps in

asymptomatic adults: a prospective evaluation. Ann Intern Med.2012;156(10):692-702.

7)Butterworth, A. et al. “Relative and absolute risk of colorectal cancer for individuals with a family history: a meta-analysis.” European Journal of Cancer, 2006.

8) Zorzi M et al. Non-compliance with colonoscopy after a positive faecal immunochemical test doubles the risk of dying from colorectal cancer. Gut 2022;71:561-567.

9) Zhu Y et al. Nonadherence to Referral Colonoscopy After Positive Fecal Immunochemical Test Results Increases the Risk of Distal Colorectal Cancer Mortality. Gastroenterology. 2023;165(6):1558-60.e4.