2024.12.18
内視鏡検査はなぜ必要なのか
目次
1. 胃カメラをなぜ受けた方がいいのか
なぜ胃カメラ検査を受けた方がいいのでしょうか?それは胃がんのリスク因子(発生要因)がはっきりしているからです。胃がんの95%以上はヘリコバクター・ピロリ菌の感染が原因です。ピロリ菌が胃粘膜に感染することで、胃粘膜が炎症で萎縮する萎縮性胃炎(慢性胃炎)となり、胃がんの発生母地(胃がんの原因)になります。この萎縮性胃炎を早期に発見し、その後のピロリ菌除菌治療に繋げることが胃がんのリスクを把握し、そして日本から胃がんを減らすことにつながります。
胃がんはかつてがんによる死亡原因の圧倒的第1位でした。現在の死亡率(年齢調整)は肺がん、大腸がんに次ぐ第3位です。胃がんが減少した原因ははっきりしており、ピロリ菌の感染者が減少しているためです。現在のピロリ菌の感染している方が多い年代は70歳~80歳以上の方が中心であり、新しく見つかる胃がんもこの年代の方が中心です。しかし、減少傾向とはいえ、胃がんはまだまだがん死亡の上位3疾患に入るため、年代を問わず胃カメラによるリスク評価は必要です。
現在早期の胃がんの治療は内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)が主流です。このESDは特に日本が世界のトップランナーとして発展させ、海外の施設でも徐々に普及している治療法です。このESDは開腹手術(外科手術)とは違い、内視鏡(胃カメラ)のみで胃の表面の胃がんを除去する治療であり、ほぼ体に侵襲(負担)のない治療法です。胃がんが見つかっても世界最高の内視鏡医のいる日本では、早期の胃がんであれば胃カメラのみで治療が完結する時代になっています。そのため胃がんを早期発見し早期治療することで、(お腹を切る)手術を受けることなく、ほとんどの患者さんが治療完了後も後遺症などの負担がなく生活することが可能になります。このような理由からピロリ菌の感染や除菌歴のある方は特に定期的に胃カメラによる胃がん検診が強く推奨されます。
近年は内視鏡機器の発展もあり、カメラはより細く、そしてより高解像度の画質による検査が可能になりました。さらに鎮静剤を使用することでほぼ負担のない胃カメラを受けることができます。自分の胃がんのリスク状態を把握し、リスクのある方は定期的な胃カメラで胃がんを早期発見する。胃がんで苦しむ人をゼロにするためには胃カメラは必須の検査です。
胃内視鏡検査(胃カメラ)を受けた方がいい人
最も保険診療で胃内視鏡検査(胃カメラ)を受けてほしい人は、ヘリコバクターピロリ菌の感染歴がある人です。これは除菌治療済みの人も、除菌治療をしてない人も基本的に毎年受けた方がいいでしょう。ピロリ菌除菌治療から10~20年以上経過し、萎縮性胃炎が落ち着いている場合は担当医に相談し、間隔を延長することも選択肢となります。
また上腹部痛(胃の痛み)や胃酸の逆流症状(呑酸)である胸焼け、胃部不快感などの症状のある方も胃カメラを受けた方が良いでしょう。ピロリ菌感染症の診断や、胃カメラを受けていないと保険診療で使用できない薬もあり、症状の原因を考え治療する上で、胃内視鏡検査(胃カメラ)は非常に大切で有益な検査です。
2. 大腸カメラをなぜ受けた方がいいのか
なぜ大腸カメラを受けた方がいいのでしょうか?それは大腸ポリープ(腺腫)が進化し大腸がんになるプロセスが解明されているためです。このプロセスを止める最大の武器が大腸カメラによるポリープ切除です。さらに下記の3つは大腸カメラを特に支持する理由となります。
- 日本では大腸がんは増加傾向であり、若年者の大腸がんも増加しているため
- 大腸カメラ検査は大腸CTや大腸MRIよりも精度が高いため
- 大腸ポリープを切除することで、将来の大腸がんの予防が可能なため
1. 日本では大腸がんは増加傾向であり、若年者の大腸がんも増加しているため
大腸がんは増えています。大腸がんの罹患数は2019年の統計では全がん種で第1位(男女別ではいずれも2位)になっています。また大腸がんはがん死亡では肺がんに次ぐ第2位、女性に限れば第1位となっています。これは年別の推移で見ても増加傾向です。
一方、アメリカでは大腸がん検診が進んでおり、また市民のがん検診意識が高いため大腸がんは経年的に減少傾向です。アメリカでは45歳以上の方は、大腸がん検診として大腸カメラ検査が無料で受けることができます。さらに実際に大腸カメラ検査を受ける人も多いため、大腸カメラ検査の受診率も高いです。つまり、多くの人が大腸カメラ検査を受ければ、全体として大腸がんは減らすことが可能です。
一方、日本では大腸がん検診は便潜血検査で行われておりますが、便潜血検査が陽性になった方に限定しても大腸カメラを受ける方は70%にとどまります。つまり便潜血検査が陽性になっても3人に1人は大腸カメラ検査を受けていません。
さらにアメリカでは若年の大腸がんを早期に発見するため、大腸がん検診の対象年齢を2022年に50歳から45歳に引き下げて、対象もどんどん拡大しています。内視鏡の診療技術においては世界最高水準の日本ですが、大腸カメラ検査の普及に関してはアメリカに遅れをとっています。このような現状を変えるためにも、大腸カメラ検査を皆さんに受けていただく環境を作ることが我々の使命であると考えます。
2. 大腸カメラ検査は大腸CTや大腸MRIよりも精度が高いため
大腸CTや大腸MRIなど大腸カメラ検査以外の選択肢はありますが、いずれも診断・組織検査を同時に行うことはできず、精度も大腸カメラ検査ほど高くはありません。さらに大腸CTや大腸MRIで異常があり要精査の判定になった場合、結局大腸カメラ検査を受ける必要があります。
つまり大腸カメラ検査は大腸がんの診断のための精密検査にもなるため、非常に有用な検査です。そして大腸がんが早期発見できれば、大腸カメラで切除が可能な場合が多く、治療の面からも体への負担が軽減できます。大腸がんの早期発見・早期治療につなげるには大腸カメラ検査は必須の検査です。
3. 大腸ポリープを切除することで、将来の大腸がんの予防が可能なため
大腸カメラ検査で大腸ポリープを切除することは、未来の大腸がんの発生を防ぐ意味があるためです。つまり大腸カメラ検査は検査と同時に治療もできる検査になります。
ほとんどの大腸がんは腺腫という大腸ポリープが進化した病変になります。この大腸ポリープは20mm以下のサイズの段階であれば日帰りで、また合併症も少なく切除可能です。この段階で切除が完了すれば将来の大腸がんが事前に切除されたことになり、将来の大腸がんリスクを低減することが可能です。
実際、大腸カメラ検査での大腸がん検診が普及しているアメリカでは大腸がんと診断される人、死亡する人はここ20年で劇的に減少しています。
大腸内視鏡検査(大腸カメラ)を受けた方がいい人
最も大腸内視鏡検査(大腸カメラ)を受けてほしい人は便潜血検査が陽性だった方です(便潜血陽性)。便潜血検査は2日法で2回検査を行いますが、1回でも陽性であれば大腸カメラの対象になります。
過去にポリープの切除歴がある方は定期的な内視鏡での経過観察が必要ですので、かかりつけ医にタイミングについて相談してください。
また他の場合は慢性的(長期的に続く)下痢や便秘などの便通異常や腹痛などがある方も一度は大腸カメラを受けた方がいいでしょう。
大腸がんの家族歴(直系)がある場合も一度は受けることが望ましいですが、保険診療で実施するかは担当医との診察時に総合判断になります。
もちろん血便や下血に関しては緊急で受けて頂いた方がいいので、すぐにクリニックを受診してください。